射手辺の遠眼鏡(珈琲の超短編版)
イベント「異形と超短編」に際しての"珈琲"をテーマとした超短編の公募に応募させていただいたお話です。 一つ前の投稿で書いた「射手辺の遠眼鏡」については、これを書き終えた後もシャズベの口が閉じなかったので書き切りました。 「いけない。」 低い声が少女を制した。...
イベント「異形と超短編」に際しての"珈琲"をテーマとした超短編の公募に応募させていただいたお話です。 一つ前の投稿で書いた「射手辺の遠眼鏡」については、これを書き終えた後もシャズベの口が閉じなかったので書き切りました。 「いけない。」 低い声が少女を制した。...
魔女集会で会いましょう 森の人食い魔女/醜い捨て子 赤茶けたものがうごめいていた。棒のような手足が、蔦で編んだ籠から出て、しきりに空を掻いている。 これはご馳走だね、と笑ったのは、通りがかった魔女である。森の奥に住み、迷った木こりや捨て子の類いを食べてしまうことで知られた女...
広間の先は一本道の水道で、はぐれの悪夢すらいない長い道を、サラは一人進んでいった。その果てには狭い煉瓦の螺旋階段が待っていて、それを上がれば、やっと地上に出るのだった。とはいえ、それがどの辺りかは分からない。橋は近くに見えているけれど、路地二つか三つ分くらいは離れたところに...
そう、溺死体。顔ばかりが白く美しく、しかし、胴体は水を含んで膨れ、弛んだ、下半身に魚の尾を持つ巨人の死体。けれど、否。そうではなかった。近寄ったその瞬間、"それ"の目がぎょろりと動いて、サラを見た。これもまた、悪夢の一形態だろうか。そう思ったのを否定するように、"それ"の腹...
しばらくこの辺りで刈りとりを続ける、そう言うキャロラインとは橋で別れて、サラはジリアンの家をまた訪れていた。大通りの悪夢の残党を刈りとりがてら…苗床を倒して気が大きくなってもいたものだから…この後どこへ行くべきか、昨晩の自分はどうしていたのか、助言を仰ごうと思ったのだ。...
「そろそろ、苗床と戦った頃だろう」 待っていたのだろうか。月の塔に戻ったサラの目の前で、バイロンが口を開いた。 「その様子では、手強い相手だったようだ」 どこか満足げに頷いて、バイロンがガゼボへ手招く。大人しく従えば、ガゼボでは、やはり、あの少女が待っていた。けれど、今回は...
悪夢の槍が脚を貫き、よろけた体を別の悪夢に深く切り裂かれて、サラは意識を失った。 そうしてまた、月見の塔の燈火の元で目を覚ます。何十度目の死だったか、もう数えてなどいない。強行突破には悪夢の数が多過ぎたのだと反省し、また、サラは旧市街へと戻った。...
サラは再び、ジリアンの家の前に立っていた。窓には未だ、ほのかに明かりが浮かんでいるのが見える。また、応えてくれるだろうか。そう思いながら彼女を呼べば、思ったより近くから返事が聞こえた。 穏やかな声に安堵するのは、初めて会った人物に刷り込むようなものなのか、それとも、昨晩親し...
まだ、サラの混乱がほどけたわけではない。けれどやるべきことがあるなら、そしてそれが昨晩も自分がやっていたことだというなら、とりあえずそうしてみよう。そう思えるだけの、自棄に似た冷静さは取り戻していた。当座の決意を固めたサラの目の焦点が段々合ってくる。その様子に満足げに頷いて...
「私を知っているの」 からからに渇いた口をなんとか動かして、サラが言った。どことも知れない街の、聞き覚えのない声の主が、自身すら定かでない“私”を知っていると言う。思わず手を伸ばした窓の中で、曇り硝子ごしに、人影もまた身を乗り出した。...
ふと、目が覚めた。辺りは真っ暗で、天井がうっすらと見えるばかり。気配を感じて横に眼を向ければ、何者かがこちらの様子を伺っていた。それが何かと認める前に、頭が冷える。これはいけないものだ、触れては、触れられては、ならない。けれど、触手のような黒い手が、蛇に似た黒い軀が迫る。未...
目覚めはやはり、診察台の上だった。けれど今、彼女を照らすのは眩しい朝日であり、立ち込めるのは、清潔さを際立たせる消毒剤の香りだ。お目覚めですか、と声をかけてくる看護婦も、おそらくは馴染みの方なのだろう。脈や体温の計測は問題なく、無事に"治療"は終わったようにみえる。先生をお...
新たにサイトを開設しました。 今後はこちらで作品を掲載していこうと考えています。 どうぞよろしくお願いします。