ある女もそうだった。考えてみるから助けてほしいの一点張りで、そんな気はないのだと、獄吏にははなから分かってしまった。それを告げれば、凄まじい顔をして、何事かを吐き捨てる。獄吏にはどこの言葉とも知れないが、意味だけはよく分かった。きっと呪いの文句でこそあれ、許しを請うそれではなかったろう。 彼女の顔を拭う手が止まる。けれど、それもひとときのこと。そうだろうね、と獄吏は肯いて、それからはまた言葉少なに、涙や汗を丁寧に拭き取る作業に戻った。 女の呼吸が落ち着き、血も固まり始めると、獄吏は布を傍らに置く。かわりに鉄串を手に取り、炉にくべた。赤々と火を纏うそれに目を落として、男はまた、何度目かの問いを繰り返す。 「始める前に、もう一度訊くよ。魔女であることを、君は認めるかい。それとも…」 __________ 「ご苦労。また明日、罪人を連れてくる」 賃金を受け取りながらも、獄吏の目は女に奪われていた。女は鎖に引きずられるようにして、ひょこひょこと内股気味に塔を出て行くところだったが、差し込んだ陽光に目を細めて微笑んだのだ。こんな顔をするひとに、苦楽を共にする伴侶になってほしかった。そう思えば思うほど、目が離せない。それに気付いてか、袋を押し付けて、刑吏が獄吏の肩を叩く。こんな仕事だ、ダメで元々…魔女や夫殺しなら他にもいるさ…。 そうして、出番だから、と刑吏が立ち去った後、彼とともに刑場へ向かった女を追って、獄吏は塔の上へ、屋根の銃眼へ足早に上る。そこからは四方が見渡せて、今まさに炎に包まれた女もよく見えた。 「今度こそは、と思ったのだけれど」 口惜しさに、首や指の拘束具に手が伸びる。血がめぐらなくなるほどそれらを締めながら、獄吏は女の絶叫に耳を傾けた。
青吊
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