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青吊

射手辺の遠眼鏡(珈琲の超短編版)

イベント「異形と超短編」に際しての"珈琲"をテーマとした超短編の公募に応募させていただいたお話です。

一つ前の投稿で書いた「射手辺の遠眼鏡」については、これを書き終えた後もシャズベの口が閉じなかったので書き切りました。




「いけない。」

低い声が少女を制した。

声の険しさに反し、目の前の男はにやついている。

彼は少女の連れではない。相席を求めてきた、誰とも知れない人だった。

彼は自分をシャズベと称し、相席の詫びに遠見の占いをしたいと申し出たのである。

見たいものを念じながらコーヒーをかき回し、続いて彼がかき回すと、カップの中にそれが映るのだという。

「錫はいけない、使うなら」

これで、と渡された金のスプーンで言われたとおりにかき回す。

水面渦巻くカップを渡しながら理由を訊けば、男の笑みが深まった。

「互いに見、触れられるようになる。錫の籠で物を渡したり、錫の矢で憎い相手を射たりね。失礼、店主さんが。」

「もう見えるよ」と返されたセピアの水面は確かに像を結んでいた。

見知った一室、そこに立つひと。少女の顔が青ざめる。

席を離れたシャズベを追う、怯えた視線がカトラリーケースを捉えた。スプーンに限らずその銀色も、錫であるのなら。


「ごめんなさい、お金これで、レシートいりません」

伝票と代金とを置き、少女は応えを待たずに店を出た。

雑踏へ駆け込む姿を見送ってから、店主がテーブルに視線を向ける。

残されたカップからは濁った中身がとめどなく溢れ出、滴っていた。

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